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荒れた大地

著作・管理・編集:勇者カカキキ

この作品には、管理者『勇者カカキキ』の著作権が発生しております。無断での使用、又は作者を偽っての公開を禁じる物とします。
この作品はフィクションです。物語中に登場する個人・団体名は、現実の同名の個人・団体とは何の関係もありません。
また一部暴力的な表現や罵詈雑言が使われおりますので、それに嫌悪感を感じる方は注意してください(使用頻度は少なめですが)。
作品を読み終えたら是非、感想やコメントを残して下さると大変ありがたいです。悪い点と良い点の指摘は非常に有難い物です。悪い部分は指摘しないと直らないと言いますし、良い部分も指摘しないと伸ばす事も難しいです。
今後の作品作りに活かしたいと思いますので是非ご協力お願い致します。
また内容は予告なく変更する事がございます。ご了承下さいませ。規約を是非お読みになって頂いてから作品をお読み下さいませ。
ご感想、ご意見のご協力お願い致します。
*暴力的なシーンが御座います。嫌悪感を感じる方は、お手数ですが御戻り下さいませ。



<荒れた大地>

 ─ プロローグ ─
 
 黒く透き通り、その内に魔力を秘める鉱石──魔石。
 バルドル大陸南部地域の町で産出され、希少価値の高い魔石を収入源に潤っていた。
 その魔石により繁栄した町は、現在、見る影も無く廃墟と瓦礫だけのゴーストタウンと化していた。
 繁栄に終止符を打ったのは、魔石を殆ど掘り出してしまったからだと言われているが、その詳細は明らかになっていない。
 魔石を掘り出していた鉱山もそのままに、全てを捨て置かれたその町は、まさに荒れた大地の様相を呈していた。
 
 
 ─ 荒れた大地 ─
 
 少なからず、魔石の情報を得た者が、今もこの赤茶けた土と瓦礫の町へとやってくる事がある。
 魔石の一欠けらで、魔銀ミスリル程ではないが銀貨、又は金貨で高価取引されている。その為、何かと金の掛かる冒険者達は、眉唾な儲け話を聞きつけては、名も無い町へと足を運ぶ。
 危険を覚悟で、万全の態勢を整えた冒険者が多数消息を絶った。その数は優に九十七名。
 その中には、著名な冒険者トリャンスキーも含まれている事から、事態を重くみた冒険者ギルドは、その調査に冒険者十数名と、傭兵十数名の調査隊を組織した。
 
 ジェイル・マーシェルも傭兵の一人として今回の依頼に参加する。
 背にバツの字に交差させ背負った大太刀二振り、腰に吊った二振りの小太刀。濃紺の装束──戦闘に立つ彼の通り名は『ダブルファング』──二刀を操る孤高の狼に例えられそう呼ばれている。
 今回の一件で、彼が多数の冒険者達が参加する調査隊に加わる事は異例の事だ。通り名の通り、殆どの依頼を一人でこなしてきた実績がある。
 今回、彼が配属されたのは第四班。メンバーは、攻性魔導士と回復魔導士、赤色鎧の傭兵とジェイルを合わせた計四名のチームに配属された。
「へぇ、お前が『ダブルファング』か? どんな奴かと思ったら、なかなか意表をついた格好してやがるのな。俺はカイン。宜しく頼むぜ!」
 金髪を掻き揚げ、赤色鎧の傭兵カインは言った。
「……ジェイルだ」
「『……ジェイルだ』って、もしかして寡黙キャラ? ……ふぅん、意外に地味な性格だな」
「うるさいボケ……」
 ボソっとジェイルは、吐き捨てるように言った。
「訂正。意外にイイ性格してるみてぇだな……まぁいい。とりあえず俺の足を引っ張るなよ!」
「手ならいいのか?」
 ジェイルは、表情を変えず真顔で言った。カインは呆れ顔で、
「……揚げ足も取るなよ。揚げ手もな」
 と言うのが精一杯だった。
 魔導士二人も名乗っていたのだが、ジェイルもカインも聞いちゃいない。
 黒ローブを着ている男が攻性魔導士で、白ローブを着ている男が回復魔導士。ジェイルとカインの彼らの認識は、『黒』と『白』、その程度の認識だった。
「やっぱ、魔物かねぇ……」
「さあな」
「それとも有毒ガスでも噴出したか……」
「さあな」
「失踪者。全員で魔石を掘っていたりしてな」
「……少し黙れ」
「んだよ。町に到着するまで暇だろうが──お、見えて来たぜ」
 カインが言った通り、目測で五十メートル。砂と土の山、発掘道具、瓦礫がそこらじゅうに散乱しているのが分かる。
 ジェイル達は全四班あるチームの殿(しんがり)を務める。
 既に第三班までのチームは町に入っている。
 恐らく、彼らだけで巣食っている魔物はあらかた片付いていると思われ、あくまでジェイル達は補助(サポート)といった形だ。
 四班の任は、他班の失踪者捜索や手掛かりを見つける手伝いが任務。
 ジェイルばかりが名の売れた者じゃない。班の戦力は均等になるよう、それぞれ調整されている。
 そこそこ名が売れてきた魔法剣士、地方で英雄と呼ばれている者など様々だ。恐らくは、カインも『黒』『白』魔導士二人も相当の手練に違いない。
 町の入口に立ったジェイルは、何かを感じ取り立ち止まった。
「……この匂い」
「うっ。何だ……これ、血の匂いじゃねぇか?」
「何か来るぞ……」
 ジェイルの言葉と同時に全員が身構え戦闘態勢を取る。既に、黒ローブの魔導士は、魔法の詠唱を始めている。火属性第一層火炎召喚呪文<ブレイズ>は、詠唱も短く基本の攻性魔法だが、最も術者の真価が問われる魔法でもある。詠唱が終了すると無数の炎が魔導士の周囲に揺らめく、遅延呪文(ディレイマジック)による効果発動に時間差をつけての待機。冷静な上級魔導士の常套手段だ。
「あれ、人じゃね?」
「負傷しているみたいだが……」
「白さん。出番みたいだぜ」
 カインの言葉に、白ローブの魔導士は一瞬不機嫌な顔をしたが、言われるまでも無いと言った風で回復魔法の詠唱に入っていた。
 ジェイルやカインは、魔導士の詠唱を聞いても、全く何を言っているのか理解できない。餅は餅屋、魔法使用の判断は、魔導士本人に任せるのが一番だ。
 ジェイル達の前に姿を現したのは、男らしい。よろよろと、よろけながら肩を押さえ、頭から血を流している。冒険者が何かを訴えるように呻いている。
 ジェイルの認識によると、英雄と呼ばれていた剣士だ。
 ──基本、ジェイルは名前に興味が無い。
「た、たす……助け」
 その男に腕を上げ応え、カインは叫んだ。
「おーい! 何だ……何があったんだぁ?」
 カインが冒険者に駆け寄ろうとしたのをジェイルが腕を掴み、引き摺り戻した。
「なっ、何しやがる──」
「馬鹿……良く見ろ」
「お……おいおい、マジかよ」
 その冒険者を良く見ると、足の部分が奇妙な形をしている。
 違う。何かが下半身に地中から喰らいついているらしい。──その奇妙な形をした何かは、弱らせ生かした男をわざと揺らしている。
 まるで疑似餌の様に……。
 黒ローブの魔導士が、補助魔法──光属性系第二層視覚強化呪文<ナイトビジョン>に闇属性系第二層視覚統御呪文<ビジョンマスタリー>を組み込み発動。
 <ナイトビジョン>で視力強化し、僅かな光を何倍にも増幅し暗所での効果が高い。だが、昼間の日の光でも、目がショック状態になってしまうという弱点も持ち合わせる。それを補うのが<ビジョンマスタリー>で網膜に入る光を調節し、一部不可視光線の知覚も可能とする。
 強化された視覚で黒ローブの魔導士は、地下に巨大な熱源を感知し、その事をジェイル達に伝えた。
 白ローブの魔導士も魔法詠唱を止め、様子を伺っている。
「退却だな……この人数では、『ソレ』を殺しきれない」
「なっ、ジェイル! お前あいつを見捨てるのかよ!」
「黒と白。お前達はどうする?」
 突然、ジェイルに話を振られた魔導士達はお互い顔を見合い、ジェイルの意見に頷いて賛同した。
「お前ら……分かったよ。見捨てられる奴の気持ちが分からねぇんじゃな……てめぇら最悪だ!」
「あいつはもう死んでる……『クグツ』に成り下がった者を助けても死ぬだけだ。──俺達も戦えばただでは済まない」
「俺は俺の信念で行動する!」
「止めても……無駄なようだな」
 ジェイルは呆れたようにカインを見る。そして踵を返し、来た道を戻って行った。
 魔導士二人もジェイルの後に続く。
 舌打ちして、そのジェイル達を睨むカイン。
「助け……助けてくれぇー! 助ケエェェェェェ──」
 魔物に捕らえられた男が絶叫。
 カインは、走り彼の下へと寄っていた。近付くにつれ男は、益々その揺れを激しくした。
「待ってろ。今、助けてやるからな……」
「ギィェェアアアア!」
 男のつんざく様な悲鳴。
 耳を塞ぎたい衝動を堪え、カインは周囲に集中する。
 突如地面から現れる無数の触手と、男の胴体は地面から上空へと伸びる。その胴体は男の下半身から下が、白色の幼虫の様にも見えた。
「うおおおお!」
 カインは槍を振り回し、触手を薙ぎ払う。
 その間、見出した隙をカインは見逃さなかった。
「今、楽にしてやる……俺が出来るのはそれだけだ──」
 カインは、渾身の力を込めて槍を投擲。
 槍は真っ直ぐに男の胴体を貫き、絶命させた。
「すまない。お前の『命』を助けるのは、神でも無ければ無理だ……だが、お前は人間の『尊厳』を失う前に死ねたんだ──英雄が生き恥を晒すものじゃない」
 やるせない表情で呟くカイン。
 魔物は息絶えた男を吐き捨て、カインに触手で襲い掛かった。現在、カインは丸腰の状態で触手と胴体とを捌かねばならない。
 一人で逃げ切れる確率は──ほぼ絶望的。
 この時、カインは死ぬ事を恐れてはいなかった。人の尊厳を守る為人を殺め、自分もまた死ぬのも仕方ない事だと思った。
 触手がカインの足を……手を捕らえる。もがけばもがくほど触手は絡まり、カインを不気味な白色の胴体へと引き摺り込む。胴体の先端は不気味な口になっており、螺旋状に牙が生え揃い機械が動作するように断続的に蠢いている。
 カインを触手で、唾液が毀れる口へと引き摺り込む。カインは最後まで抵抗を続けた。
「くそ、離しやがれ! でけぇ芋虫風情が、このカイン様を食おうなんざ百年早いんだよ!」
「何だ……まだ減らず口が叩けるんだな」
「!」
 瞬時に、カインを縛っていた触手を切り落とす。魔物が奇怪な悲鳴を上げて仰け反る。
 目が点になっているカインに、ジェイルは槍を投げ渡す。難なくカインは槍を受け取り、キョトンとしている。
「呆けてる場合か」
「いや……何だよ。くそ、むかつくな──」
「走るぞ」
 カインは不機嫌そうにジェイルの後に疾駆する。町の入口を目指し駆け抜ける。
 地面がうねり無数の紫色の巨大触手が出現。ジェイル達の進行を阻む壁が形成された。細い白蛇のような不気味な触手が、巨大触手の先端で無数に蠢き、ジェイルとカインに狙いを定める。
 ジェイルは、小太刀を投げ前方に迫る蠢く細い触手を切り裂き道を作りだす。その瞬間にカインが、巨大触手の懐に入り薙ぎ払う。切断された触手は瞬く間に腐り朽ち、刺激臭を発した。──目や喉、呼吸器系に作用する毒ガスだった。
 咄嗟にジェイル達は息を止め、安全圏まで駆け抜ける。無呼吸活動による疲労感が襲うも、彼らは走り続けた。
 奇怪な生物の雄叫びが背後で聞こえる。
 よく見ると、町全体から触手、触手、触手が立ち並び、その光景は余りにも浮世離れしていた。
「はぁはぁ……どうやら追って来ないみたいだな」
「ああ」
「──先行していた奴らは駄目だろうな」
「被害甚大。……生き残りは、俺とお前だけだな」
 さらりとジェイルは呟いた。
「は? 魔導士二人組はどうしたんだ?」
 当然の疑問。カインは訊ねる。
「突如前方に現れた触手に反応した瞬間、背後から潰された……知恵の回る奴だ」
「悪夢だ。──で、何で俺を助けに来た!」
「ふん、触手から逃れ追い詰められた……お前が生きていたのは予想外だ。助けない義理も無いからな」
「そういうのを余計なお世話ってんだ──まぁ、助かった事には礼を言う」
 凄く照れ臭そうにカインは金髪を手で掻き、礼を呟き述べた。
「しかしだ。死を覚悟した側からしゃしゃり出やがって、敵に背を向けさせた報いだ。任務終了次第、尋常に勝負しやがれ!」
「……死ぬぞ? 拾った命を粗末にするな」
「はっ、殺せるのか?」
 傭兵二人、赤茶けた大地を疾駆し、数時間後生還。
 彼らの生還により、この件で一つの結論が出た。
 あの町で遭遇した魔物は、その奇怪な特徴により『バルバドゥース・ワーム』と判明。危険度数は計測不可能。また町より五キロ圏内を超厳戒態勢区域に指定封鎖。
 また、失踪した全ての冒険者は死亡と断定、その数は確認されているだけでも三桁を超える。今回の作戦で二十名の冒険者と傭兵の死亡が確認された。
 魔石は魔力を秘めている鉱石……その魔力が災厄たる存在を呼び寄せたものと推測される。
 今後の二次災害を防ぐ為、一般に出回っている魔石の回収が行われているが、回収状況は芳しくないとの事。
 魔石の魅力は人も例外では無く惹きつけるらしい。
 この件は、バルドル大陸至上、最悪の魔物被害と認定された……。
 
 
 ─ エピローグ ─
 
「さてと、決着をつけようかジェイル・マーシェル!」
「ふん……御託はいい──来い」
 ジェイルは背に背負った大太刀を抜き、カインは槍を身構える。
 刹那。
 火花を散らす二人の戦いが始まった。

<完>

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